Porsche - 鍛え抜かれたパフォーマンス

鍛え抜かれたパフォーマンス

パワー、持久力、そして効率性においてさらなる進化を遂げた 911 カレラ。技術的なハイライトとなるターボエンジンを中心に、新型のテクニカルトピックスを紹介しよう。

試合終了と同時に次の試合は始まっている。ポルシェの 911 開発ティームは、スポーツの世界で昔から語り継がれている格言をきちんと守っている。彼らは 2011 年に現行(タイプ 991)世代の 911 が発表された時からヴァイザッハ研究開発センターで 911 を次のステージへ昇華させるための作業に取り掛かっていた。理由は明確。「トップの座に君臨し続けたいならば、常にそのパフォーマンスに磨きをかけなければならない」からだ。

トッププレーヤーとして、まずは客観的な数値で実力を証明する必要があるだろう。ポルシェ ドッペルクップルング(PDK)を搭載した 911 カレラは、最高出力 370 PS という傑出したパワーを発揮する一方で優れた燃費性能を実現。燃料消費量(NEDC 準拠)は 13.5 km/L を誇り、先代モデルの 12.2 km/L から大幅に低減している。また、0 – 200 km/h 加速においても、先代モデル比で 1 秒短縮となる 14.8 秒をマークしており、進化は歴然だ。

ちなみに、最高出力 420 PSを発生する 911 カレラ S は、0 – 200 km/h 加速タイムで堂々の 13.2 秒をマークする一方、燃料消費量は先代モデルの 11.5 km/L に比べて 13.0km/L に抑えられている。発進加速だけでなく中間加速の向上も著しく、新型カレラの 80 – 120 km/h 追い越し加速性能は 5.5 秒(5 速ギア使用時)をマーク。新型モデルの優位性が現れている。

ターボエンジン

1 バリオカムプラス
新しい水平対向エンジンは吸気 / 排気の両側で開閉時間が制御される。排気バルブも自由に可変させられるようになり、バルブタイミングの調整がより細やかになった。

2 ウォーターポンプ
切替式のウォーターポンプで、始動後のエンジン暖機をスピードアップ。

3 クランクケース
粗化された摺動面を鉄粒子でコーティング。低摩擦による効率化を果たした。

4 ダイレクトフューエル インジェクション
中央に配置されたインジェクションバルブが 最大 250 bar の圧力で燃料を噴射する。

5 ターボチャージャー
2 基の小径ターボチャージャーが  1700 ~ 5000 rpm のワイドレンジにおけるフラットな高トルクを実現した。

6 インタークーラー
ターボチャージャーで圧縮される空気は出力向上のために外気により冷却される。

数値の羅列だけではいまひとつ実感がわかないかもしれないが、911 のパワートレイン担当責任者であるトーマスクリッケルベルグが全ての疑念を解消してくれる一枚の紙を見せてくれた。それは新型 911 カレラ/カレラ S に初採用された新型 3 リッター水平対向 6 気筒エンジンの性能曲線、いわゆるトルクカーブだ。クルマに精通している人なら、1700 rpm ~ 5000 rpm の領域における平坦なトルクカーブがターボエンジンの成せる業だとすぐ気付くはずだ。初代 911 ターボ(タイプ 930)の登場以来、ポルシェはターボ技術のパイオニアとして地位を築いてきたが、標準のカレラモデルでは一貫してレスポンスの良い、高回転を厭わない自然吸気エンジンを与えてきた。しかし、出力とトルクをさらなる高みへと押し上げるには、やはり高回転型自然吸気エンジン故の限界があったのも事実だ。「新しいカレラ用ターボユニットの開発にあたって、我々は自然吸気エンジンのフィールに近づけるべく注力しました」とクリッケルベルグは明かす。

それを達成するための努力は並大抵のものではなかったはずだ。エンジニア陣は試行錯誤の末、新エンジンには一基の大径ターボではなく、2 基の小径ターボをシリンダーバンク毎に装着するパッケージを選択。スロットルを全開にしてから最大トルクが発生するまでのタイムラグ短縮を図ると同時に、ターボチャージャーの慣性モーメント低減に努め、素早く稼働回転数に達するよう調律したのである。

「極めてダイナミックな走行をしていると、オンボードコンピューターがそれを感知します」とクリッケルベルグが説明するように、エンジン制御システムには今回新たにスポーツ性能感知機能が加えられ、タービンを通る排気流を高レスポンスのバルブによって制御する。スポーツ性が高いと判断した場合、または初めからスポーツモードを選択している場合には、一定の排気流がタービンの “準備を整える” ために継続的にタービンへ送られ(タービンはこれにより常に回転している状態となり)低回転域での高トルクと俊敏なレスポンスを保つ。また、バリオカムプラスシステムも改良を受け、開閉時間とストローク量の可変を吸気バルブだけで行っていた従来型に対し、新型では排気バルブも自由に可変させられるようになり、バルブタイミングの制御がより細やかになった。

ターボチャージャー

1 レイアウト
両タービンがシリンダーヘッド付近にレイアウトされたことで、排気エネルギー 効率が高まりレスポンスが向上する。

2 ウエストゲート
電子制御ウエストゲートが排気流を素早くコントロール。

3 タービンホイール
タービンホイールは排気流で稼動し、同軸上に配置されているコンプレッサーホイールに運動エネルギーを伝達する。

4 コンプレッサーホイール
チャージされた空気を燃焼室に送り出す。

ターボエンジンの出力は、過給気の冷却性能が大きな鍵を握っている。吸気された空気の温度はターボチャージャーによる圧縮を経て高温化し空気膨張する。燃焼室へ送られる酸素分子が少なくなるため、外気によって冷却しないと出力が低下してしまうのだ。ヴァイザッハの開発陣はリアセクションの横幅を広げることなく冷却空気をインタークーラーへ供給する方法を編み出した。かくしてリアセクションが大々的に改良されることになった。

インタークーラー

1 空気を集める
圧縮空気を冷却する外気はリアスポイラーから流れてくる。

2 冷却
2 基の熱交換器により圧縮された空気の温度を冷却する。

3 流出
リアエプロンにある二つの開口部を通じてエンジンルームから 冷気が流れる。圧力差が生じない構造になっている。

ターボチャージャーに重点をおいてご説明してきたが、これは新世代の水平対向エンジンの一面にすぎない。新エンジンは排気量が 3 リッターであることを除き、先代モデルに搭載されていたエンジンとは別物と言っていい。例えばダイレクトフューエルインジェクション。新型エンジンではインジェクションバルブが吸気/排気バルブの中央にレイアウトされ、最大 250 bar で燃料を燃焼室に均等噴射する。このクリーンで効率的な燃焼により、新型 911 カレラは Euro 6 の排ガス基準を楽々とクリアしている。

効率と言えば、新型エンジンには軽量で摩擦抵抗の少ないコンポーネントが多用されているが、その最たる例がクランクケースで、これまでのケイ素を多く含む素材に代わり、新型では低合金アルミニウム鋳造式のものを採用。粗化された摺動面はプラズマジェットにより生成された鉄粒子でコーティングされ、耐摩耗と低摩擦を実現している。クランクケース単体で従来型より 1.5 kg の減量に成功した上で、合成樹脂製オイルサンプの採用、排気ガス浄化のための二次空気システムの排除により 2 kg の軽量化を果たしている。

エアロダイナミクスと軽量設計

1 流れにぴったり
新型 911 カレラは セグメント内でトップの Cd 値= 0.29 を誇る。

2 クローズ
エンジン負荷が低い場合はラジエーター前に 配置されたスラットが 閉じ、空気抵抗を低減する。

3 軽量設計
新しい製造方式によりさらなる軽量化を果たしたホイール。強大なトルクを路面に伝えるためリアタイヤはワンサイズ太くなった。

徹底した軽量設計はバネ下のパーツも同様だ。繊細な印象を与える新しい 20 インチホイールはスピニング製法と呼ばれる製造方式でリム部を引き伸ばしながら成形し、鍛造に匹敵する高強度 を実現しつつ数百グラムの軽量化に成功している。半インチワイドになったリアホイールには、ベーシックモデルでも先代モデルの 285 / 35 に比べてワイドな 295 / 35 タイヤが装着されたことで、驚異的なトルクもしっかり路面に伝達される。

筋骨隆々としたイメージからは想像もつかいないほどの俊敏性は、新たにオプション設定されるリアアクスルステアリングによるものだ。走行速度が 80 km/h 以上の場合、フロントホイールと同一方向にリアホイールを操舵するため、高速でのコーナリングや急な車線変更において走行安定性が高められる。一方、低速域ではリアがフロントと逆相に操舵され、旋回半径が最大で 50 cm 小さくなり取り回しが楽になる。

さあ、全ての準備は整った。キックオフのホイッスルが鳴っている。 史上最高と名高い 911 の活躍はいかに。あとは楽しみに待つとしよう。

Johannes Winterhagen