空気と水が生み出すパワー
718 ボクスターと 718 ケイマンに搭載される水冷式インタークーラーはターボ技術の新たなマイルストーンとなる Made by
昨年、ポルシェは 911 モデルの大半をターボ・エンジン搭載車へ転換した。そして今、718 ボクスターと 718 ケイマンが、燃費を抑えながら出力とトルクを向上させるべく 911 に追従する。911 が搭載するフラット 6 ユニットには “空冷式インタークーラー” が組み合わされているが、718 モデル用のフラット 4 ユニットには “水冷式インタークーラー” が選ばれ、冷却した空気をターボチャー ジャーで燃焼室へパワフルに噴射することによって優れた効率性を実現している。
自動車の世界でターボチャージャー技術が花開いたのは 1970 年代初頭のこと。排気を活用して駆動されるタービンによって空気を圧縮し、その圧縮空気を燃料とともに燃焼室へ噴射することによって効率を高めるこの技術は、排気量を拡大することなくエンジン出力を大幅に向上できるため瞬く間にモータースポーツを席巻。そして 1974 年型のポルシェ 911 を皮切りに、市販モデルへの転用が始まる。
当時のエンジニアは、ほどなくチャージエアの温度が低いほどエンジンが効率よく稼働することに気が付いた。チャージエアの温度が下がると空気密度が高まり、燃焼効率が良くなって出力が向上するのだ。そのためのデバイスは “インタークーラー” と呼ばれ、ポルシェは 1977 年型の 911 ターボより市販モデルに導入を開始した。
リア・エンジンの 911 と異なり、ミドシップの 718モデルはスペース的にターボにインタークーラーを加えたパッケージ の装備が難しい。インタークーラーを搭載するためには、エア・インテークを追加する必要がある。さりとてミッドシップ・スポーツカーとして非の打ちどころのないボディ・デザインにメスを入れ、部様な穴をあけるわけにはいかない。
かくして選択されたソリューションが、空気ではなく水で冷やす水冷式インタークーラーなのだ。 クーラントとして水を利用するこのシステムは冷却効率が高いため、美しいボディ・ラインをいじらなくても吸気冷却が可能なのである。718 のインタークーラーには、エンジン用高温循環システムと、ターボチャージャー用低温循環システムという 2 つの吸気サーキットが設けられた。
空気の流れはこうだ。まず(進行方向左側に配置された)エア・インテークより吸引された空気はフィルターにかけられターボチャージャーへ流れる。タービンで圧縮されて高温になった空気(最高で 170 °C に達する)は、エンジンの上部に設けられた水冷式のインタークーラーを通って冷却される。つまり、低温循環システムの水が空気の熱を取ってくれるというわけだ。冷却により温度が上昇した冷却水はサイドに 2 つ設けられた低温クーラーへ送られ、走行風によりキンキンに冷やされ、再び循環システムでエアを冷やすための準備を整える。
完璧に温度調節されたチャージエアは最終的にスロットルバルブを通って燃焼室へ噴射される。その完璧に調律された混合気が燃焼室内の炎をミリ秒単位で精確に燃え上がらせ、ポルシェにパワーを宿すのである。
文 Thomas Fuths
イラスト ROCKET & WINK