『栄光のル・マン』知られざる舞台裏の友情
ジークフリート・ラウヒは、成功したドイツ人俳優である。彼の役者人生の中でのハイライトは、レーシング・ドライバーに扮してスティーブ・マックイーンの相棒を演じた『栄光のル・マン』だろう。ラウヒとアメリカ人俳優との出会い、そして友情を垣間みる。
ラウヒさんは 1971 年に映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンと共演されました。当時、映画の撮影中、印象に残っているエピソードを教えてください。
スティーブは “絶対的” がつくほどの完璧主義者でした。たとえばこんなことがありました。ピット・ストップでヘルメットを脱ぐシーンの撮影中、汗をかいているように見せるためにメイクのスタッフが我々の顔に水を吹きかけたのです。するとスティーブは、「ノー、ノー、ノー、それじゃダメなんだ!」と厳しい口調で制して、マシーンに乗り込むと真剣に 2 ラップ走って戻ってきました。ヘルメットを脱いで開口一番発した言葉が、「ジギー、見なよ。本物の汗をかいてきたよ。メイクでは額に浮き出た血管まで再現できないからね」ですから。彼は迫真の映画を撮るためにリアリティを徹底的に追及しました。そして、そんな彼を、私は心から尊敬しました。
スティーブ・マックイーンとの最初の出会いは?
栄光のル・マン』の撮影がスタートしてしばらくの間、彼と言葉を交わす機会はありませんでした。もちろん、ロケでは誰もがスティーブと話をしたいと思っていましたが、そう簡単なことではありません。私は彼が落ち着いて仕事に打ち込める環境が大事だと思っていましたし、少なくとも邪魔だけはしたくはありませんでした。そんな私の立ち振る舞いが彼に好印象を与えたようです。撮影開始から 1 週間ほど経ったころでしょうか。彼の方から私の所へ来て、「なぜ私に話しかけてこない?」と問われた時がスティーブとの初めての会話でした。その時から、我々は朝から晩まで、いつも一緒に時間を過ごしたのです。
映画に備えて、どのようにドライビングを学んだのですか?
映画で使用したレーシングカーの “フェラーリ 512 S” と同じパワートレイン・レイアウト──ミドシップのポルシェ 914 を購入して、ル・マンのコースでトレーニングしました。
栄光のル・マン』の撮影終了後もスティーブ・マックイーンとの付き合いが続いたと聞いています。
初めて出合ったのに「この人をずっと知っている」と感じることがあるでしょう?私とスティーブの出会いは、お互いにとって、まさにそうだったのです。私はバイエルンで、そして彼はアメリカで、子供時代に貧しい環境の中で育ったという共通点があります。そしてスティーブは大スターでありながら気どりのないとてもシンプルな男でした。映画の撮影終了後、彼が「2~3 日フランスをドライブする気はないかい?」と聞いてきたのです。もちろん快諾しましたが、それはたまらなく楽しいドライブになりました。
ドライブ後の顛末を教えていただけますか?
パリで数日を楽しんだ後の別れ際、スティーブは無言で私の目の前に立っていました。心中を察した私は「ここで別れずに、バイエルンの僕の家まで遊びに来る?」と訊いてみたところ、彼は「Yes」と頷きました。
ご子息であるベネディクトさんの洗礼の際、教父としての立ち会いにマックイーンが遅刻したそうですが。
スティーブは、私の住んでいる村まで自力でたどり着きたかったようです。ムルナウまでは順調に来たらしいのですが、道がわからなくなって、女の子に道を尋ねると、彼女は突然目の前に現れた大スターを見つめて、「スティーブ・マックイーン」と口籠るだけで、何も答えられなかったそうです。彼は結局 30 分遅れて到着しました。
文 Sven Freese