ドライビング・インストラクター

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走行データ: GPS トラックはドライビング・ダイナミクスと走行タイムの評価ベースとなる

サーキットでインストラクターの代役を務めてくれる “ポルシェ・トラックプレシジョンアプリ”。その驚くべき機能をご紹介しよう。学習目標はプレシジョン(精確性)。デジタル技術の進歩により、今ではスマートフォンの操作で車輛機能を拡充することができる。ポルシェが開発したスマホ向けアプリの体験レポート。

時として、人は咄嗟の判断を強いられることがある。結果的に何も起こらなかったとしても、かなり際どい事態が少なからずある。特にシビアなレース中は単位時間あたりに求められる判断項目は多い。理想的なブレーキのタイミングとステアリングを切り始める間合い。コーナーでのライン取りと脱出時にスロットルを開くタイミング……。これまでドライバーのパフォーマンスを総合的に評価してきたのはラップを計るストップウォッチだが、ストップウォッチが常に正しい指標かと問われれば、答えに困る。1 周の走行パフォーマンスを反省するにしても、最後の直線を走り抜けた後に前週の結果を知っても遅すぎる。測定の観点から見れば情報量が少なすぎるし、そこから学べるものも少ないからだ。

今回はポルシェのトラックプレシジョンアプリを試すために、ニュルブルクリンク北コースのミニチュア版と呼ばれる全長 4.2 キロのテストコース、ビルスターベルグ・ サーキットにやって来た。ハノーバーとカッセルの間に位置するこのコースはオストヴェストファーレン地方で最も美しいと言われるだけあって、周囲は豊かな森に囲まれ、美しい絵画のような景色が広がっている。

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ゴーストカー(青)が常に理想のラインと比較する。 曲がりくねったエーンハウゼンのコース

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1) 毎秒 10 回: 情報の収集および伝送のためにボードコンピューターから全ての記録が呼び出される
2) 準備万端:世界中の約 60 か所のサーキット、130 のコースがアプリに登録されている。地図編集ソフトを使って自分でそれ以外のコースを登録することも可能
3) アクセルの位置とブレーキ圧: 動画に沿って棒グラフがアクセルの踏み込み量を 表示。ここではブレーキ圧が 0
4) 操舵角:搭載されたコントロールユニットで ハンドルの動きを精確にキャッチ
5) スピード、ギア、回転数: コースに応じて測定データが表示される
6) 前後/横 G: 横方向にかかる最大負荷を G フォースで表示。制動力も同様

今回のテスト車輛:最高出力 500PS、最高速度 320km/h を誇る鮮やかなイエローの新型ポルシェ 911 GT3。サーキットに新たなスタンダードを築く。

コーチ:ヴァイザッハにあるポルシェ研究開発センターの “Porsche Connected Car – Drive Functions” 部門にて。新たなポルシェ・トラックプレシジョンアプリの開発者、エドゥアルド・シュルツ。

生徒:著者。馴染みのコースとはいえ、S タイヤ(Michelin Pilot Sport Cup2 N2)と路面温度の高いサーキットでの単独走行は初めての経験。

ポルシェの開発ティームはこのスマホ用アプリの開発にあたり、様々なアイディアの組み合わせを検討したという。「プロのドライバー向けには遠隔測定を使用してきていましたが、最近ではスポーツクロノパッケージを使用しています。5 年前くらいから GPS を使ってラップタイムを計測するアプリが市場に出回るようになり、中にはラップタイム以外に様々な車輛データを取ってくれる製品もあります。ポルシェ もプロのためのレース用アプリを開発するアイディアを随分と長く温めてきたのです」と説明してくれるのはアプリの開発者シュルツだ。

今回使用するハードウェアは iPhone 6 で、頑丈なケースで守られバックミラーの下に取り付けられている。内臓アプリには 60 か所におよぶ世界中の主要サーキットの詳細データと、130 か所のコース・レイアウトが登録されている。その中から任意のコース(今回はビルスターベルグ)を選択すればシステムが起動する。シュ ルツの説明はこうだ。「理想的な走行ラインやブレーキングポイントが複数ある ビルスターベルグのようなサーキットではこのアプリの効果が即座に出ます。ドライバーに的確なドライビングスタイルを提案できますから」。

ラップタイム機能

操舵角、ブレーキ圧、アクセル・ペダルの位置、前後/横 G、そして GPS データ。 アウトラップを終え計測 1 周目に入った 911 GT3 に搭載されているセンサーから早速データが送られてくる。スタート/ゴール地点は自動的に認識され、走行中に 収集されたデータは全て記録され、走行後にタッチ操作で呼び出すことが できる。

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明らかに向上したパフォーマンス:過去の参照ラップタイムに比べてスピードアップ

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概要: マップ、最高タイムおよびスピード差を表示。カメラを二台接続すれば別の角度からの録画映像をシステムに追加することも可能。コンピューターでもっと詳しい分析をしたいなら、動画と走行データを転送することもできる

一周目の走行後。スマートフォンに収集されたデータが即座に分析されると、GT3 のコックピットのアニメーションに合わせて実際のハンドリングの動きが再現され、コースのレイアウトに応じて減速ポイントと加速ポイントの位置も表示してくれる。画面にはラップタイムとスプリットタイムが表示され、あらかじめ設定された参照ラップタイムとの差をグラフで見ることもできる。自分が以前走ったベスト・ラップとリアルタイムでの勝負が可能なのだ。

GPS トラック機能

記録データには速度やエンジン回転数、ギア・ポジション、前後/横 G だけではなく、オーバーステアやアンダーステアも含まれる。正確なタイムの分析を行うために GPS データを援用した走行チャートの作成も可能。自らのラップの走行ラインをシミュレートしながら、コースの詳細を表示させたり、アニメーション動画に切り替えたりもできるので “自己分析” もお手のものだ。

ゴーストカー機能

望むなら、理想的なラインを走るゴーストカーと仮想比較し、先導してもらえる。参照ラップタイムと比較してどれだけ遅れているか(赤)、速いか(緑)を棒グラフでリアルタイムに可視化することさえできる。赤い棒グラフが高くなりすぎているなら、タイヤのコンディションを考慮して走行を中断するという選択もあり得る。緑の棒グラフが表示されると、既存のラップタイムに比べて速く、理想的なラインを走っていることになる。スポーツ・ドライバーなら誰もが自身のタイムアップに胸を躍らせるだろう。「分析が効果を出しましたね。1 周目に比べて 1 秒早くなっています」。アプリ開発者のシュルツはゴール直後にこんな言葉を投げかけてくれた。

アプリがなければタイムが上がった理由は推測の域を超えなかっただろう。しかしこのアプリがあれば、次のレースまでに弱点を克服し、さらなるタイムアップも可能となる。

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テクノロジー戦略: 著者のホルスト・フォン・サウルマとポルシェ・トラックプレシジョンアプリの開発者エドゥアルド・シュルツ(右)がラップタイムを検証する

Horst Von Saurma
写真 Andreas Lindlahr

ポルシェ・トラックプレシジョンアプリは新型 718 ボクスター、718 ケイマン、911、そして全ての GT モデルで利用可能。ただし、 ポルシェ・コミュニケーション・マネージメントシステム(PCM)バージョン 4.0 以降、コネクト・プラス、スポーツクロノパッケージを搭載している場合のみ