Back to the Roots
1948 年 6 月 8 日、公道の走行許可を得たポルシェ 356 “No.1” の外観は何十年という時間と共に変化を遂げてきた。今回、ポルシェの名を冠する最初のスポーツカーがショーカーとしてレストアされて蘇る。
当時、手間暇を惜しむことなく丁寧に作り上げられた至高の一台、ポルシェ 356 No.1。1948 年に板金工のフリードリッヒ・ウェーバーはこの “No.1” に 2 か月以上の時間を要し、それから何年もかけて、多くの職人やエンジニアたちが初代ポルシェに手を加えていった。
さすがにあの頃と全く同じ姿に戻ることは無理だが、当時と同じ素材を用い、同じ技術でレストアを進めていけば、相当のレベルまで持っていけるのではないか。そう考えたポルシェの専門家たちは 1948 年製ロードスターのディテールまで忠実に再現するため、3D スキャナーでポルシェミュージアムに展示されていた 356 を測定することから取りかかった。コンピューターが表示した結果を見てみたところ、1948 年当時の設計図にロードスターの測定値を重ね合わせると、かなりの “ずれ” が確認できる。原物の写真や当時の作業日誌を確認する資料スタッフと相談しながら、少しずつオリジナルのフォルムに近付けていく。これが想像以上に難しい。そして最後にコンピューター制御のマシニングセンタで硬質発泡スチロールを加工すると…… 1948 年製ロードスターの原寸大フォルムの完成だ。
しかし、1948 年製 356 の実物の隣に並べてみると、何かが違う。オリジナルのボディはリアに向かってほっそりとしていき、トランクは室内と一体化し、リアバンパーまで伸びている(※後にエンジンを覆うプレートとラゲッジルームを覆う短めのボンネットの 2 ピース構造に変更)。
こうして当時と同じように手工具でアルミニウムの板金を曲げ、打ち出し、成形し、70 年の時を経て、生まれ変わったポルシェ 356 No.1 。塗装成分まで全く同じだというのだから、その再現度が高いのも頷ける。しかも、できる限り同じ色に仕上げるために、ダッシュボードの下に何層も塗り重ねられたオリジナルの塗装サンプルを抽出し、分析までする徹底ぶりだ。ダッシュボードのステアリングコラムの左右にはオリジナルと同じメーターパネルがあり、カーペットのノット数まで 70 年前のものと同じに揃えている。
ここまで忠実に再現していながら、唯一このショーカーが真似できなかったのは、走行することだけだ。フロントアクスル、ステアリング、ステアリングホイールは原物と同様、VW の “ビートル” のものを取り付けているが、ボンネットの下にはエンジンはなく、リアアクスルにはただのパイプが取り付けられている。
こうして 8 か月の時間をかけて完成したポルシェ 356 No.1 ショーカー。当時の面影をそのまま残したこの 一台はポルシェの歴史を物語るだけでなく、象徴的な意味を持つ。このロードスターのドライビングダイナミクスを重視した設計、軽量ボディ。どれもポルシェスポーツカーへと繋がるルーツがそこにあるのだ。 ポルシェにとって記念となる今年、世界中で多くのイベントが予定されている。もちろん、ポルシェ 356 No.1 ショーカーもそのワールドツアーに帯同する予定だ。
356 “No.1” ロードスターとショーカーで回るワールドツアー
“ポルシェスポーツカーの 70 年”を記念して、ポルシェミュージアムからポルシェ 356 No.1 ロードスターをワールドツアーへと送り出した。ツアー日程は以下の通り:
• 6 月 8 日:ドイツ、シュットゥットガルト、ツッフェンハウゼン、ポルシェミュージアム、式典
• 7 月 12 日から 15 日まで:イギリス、グッドウッド、フェスティバル・オブ・スピード
• 9 月 8 日および 9 日:カナダ、バンクーバー、ラグジュアリー&スーパーカー・ウィークエンド
• 9 月 27 日から 30日まで:USA、ラグナ・セカ、ポルシェ・レンシュポルト・リユニオン
356 “No.1” ショーカーのワールドツアー日程は以下の通り:
• 5 月 31 日まで:ドイツ、ベルリン、フォルクスワーゲンフォーラム “DRIVE”、展示
• 6 月 9 日および 10 日:南アフリカ、ヨハネスブルグ、キャラミ・グラン・プリ・サーキット、 スポーツカー・トゥギャザー・デイ
• 7 月中旬から 9 月末まで: ドイツ、シュットゥットガルト、ツッフェンハウゼン、ポルシェミュージアム、展示
• 11 月 15 日~ 25 日:中国、広州市、自動車見本市
文 Peter Weidenhammer
写真 Markus Leser,